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AC長野パルセイロのこと (番外編)


3月10日の朝、私は川崎フロンターレのサポーターグループ「川崎華族」の初代代表だった砂田淳と連れ立って長野までの新幹線に乗り込んだ。
彼の母親の実家がパルセイロのホームスタジアム南長野総合球技場のすぐ近くにあり、その縁もあって彼は昨年から何度かパルセイロの試合を見ていたのだ。
今回、私が招かれて長野に行くことになり、開幕戦でもあることだし、一緒に行こうということになった。

新幹線の車中、砂田からパルセイロのことについて彼が見て感じたことを話してもらった。
内容としては、ゴリゴリ行く粗削りながらも魅力的なサッカーをすることであったり、サブでありながら途中出場でテクニカルなプレイを見せる砂田の好きなタイプの田中恵太のことであったり、はたまた「あのスタジアム、なんかいいんすよね~」であったり。
彼は川崎生まれの川崎育ちで、今もフロンターレサポーターでありながら、パルセイロのことが気に入っているらしかった。
監督が薩川了洋から美濃部直彦に変わったとはいえ、私は砂田がサッカーをとても好きで、国内外を問わずいろいろと見て知っていることを十分にわかっているので、はじめて見るパルセイロのサッカーに内心で大きな期待を持ち始めていた。

しかし、それとは別の面で気になっているところがないわけではなかった。

試合後のトークイベントでは主にJリーグにかかわることを話す予定になっていた。
パルセイロはJを目指すクラブとして、来シーズンからは(ほぼ間違いなく)J3に加盟することになっているからだ。
なので、当然ながら私はパルセイロについて若干の下調べをして長野に向かっていた。
気になっていたのは主としてクラブの経営・運営の体制についてである。

サッカークラブは下のカテゴリーに行けばいくほど、クラブとは名ばかりで実質ただのチームであることが多い。
別にそれでいけないわけがない。
自分たちがサッカーを楽しむのにはチームさえあればそれでいい。
しかし、Jクラブとなればそうはいかない。
準加盟だってJ3・J2・J1のクラブライセンスだってある。
なにより、勝利するためには金で選手を雇わなければならない。
金が必要なのだ。
それにJ基準を満たすためのスタジアムを作るにはホームタウン行政の理解や市民の後押しが必須となる。
パルセイロはすでにJ加盟を目指すということでJのスタジアム基準を満たす方向に舵を切っているクラブだ。
前身の長野エルザサッカークラブとは存在意義が大きく変わっている。
Jが標榜する総合型スポーツクラブ化としてAC長野パルセイロレディースという女子チームを持ち(今シーズンからは、高校2年生の時に女子代表に選出され、指導者としては日本女性ではじめてS級を取得し、岡山湯郷Belleの監督として宮間あやなどを育てた本田美登里が監督だ)アイスホッケーチームも運営している。
今までのようにはいかない。
ただサッカーさえやっていればいいというわけではないのだ。

パルセイロは先ごろ発表されたように、昨年からスーパーバイザーを務めている丹羽洋介を社長に据えた。
丹羽といえば元Jリーグチェアマンの鬼武健二氏や元日本サッカー協会副会長の野村尊敬氏らと広島の高校でプレイし、早稲田に進学してからは川淵三郎氏や松本育夫氏、森孝慈氏、釜本邦茂氏などともプレイしていて、ご本人も代表経験のある1940年生まれの長野サッカー界の重鎮だ。
長野へは東洋工業(現マツダ)の仕事で赴任し、後に長野県サッカー協会会長、北信越サッカー協会会長を歴任している。
そんな貴重な人材をクラブのトップに据えたのだからパルセイロの本気度も伝わってこようというものだが、ただそれだけでうまくいくというものでもない。

長野県は大きく東信・北信・中信・南信と4つの地域に分けられており、パルセイロがホームタウンとしている長野市は北信地域になる。
長野市としての総人口は2013年3月1日現在で386,564人(長野市調べ)。
そのうち、生産年齢人口(15歳~64歳)は234,376人で、1世帯あたりの人口は3人に満たない状況だ。
また、つい先ごろのニュースでは「AC長野パルセイロは22日、ホームタウンを北信地方の全15市町村に変更する方針を決め、了解を求める文書をJリーグに郵送で提出した。(略)AC長野は、南長野運動公園総合球技場(長野市)の改修中には佐久市でホームゲームを開くため、東信地方への支援の広がりも期待している。AC長野の運営会社『長野パルセイロ・アスレチッククラブ』の次期社長に内定している丹羽洋介スーパーバイザーは『自ら汗をかき、地域の活性化に役立ちたい』と話していた」との報道がなされた(信濃毎日新聞:2013年2月23日付)。

Jでもホームタウンを広域化しているクラブは少なくない。
広域化することによって、そこでサッカースクール事業を行うことができ、その子供たちや保護者をクラブの顧客として取り込む狙いがある。
また、そういう活動によって地域との交流が進めば、新しいスポンサーの獲得にも切り口が見つかるというわけだ。
そうしたことの積み重ねによって地域活性化につなげられれば、行政の支援も受けやすくなるだろう。
順調にパルセイロのホームタウンとして北信地域が認められたとすれば北信地域の人口は641,099(2013年1月1日現在:長野県調べ)だから顧客ターゲットは格段に広がることになる。

しかし、だ。
コトはそう簡単には進まない。

ホームタウンの広域化をしたとして、それらをフォローできるマンパワーはクラブフロントに足りているのか?
広域化したはいいけど人手が足りなくてフォローができなければそれらの地域の人の期待はいともたやすく反感に変わってしまう。私は実際にそんなクラブを知っている。
ただ頭数が揃っていればいいというものではない。
あるクラブでは就職先が見つからなかった若者を社長のコネで入社させたのだが、その若者は外来者に挨拶ひとつできない人物だった。
また、これもよそのクラブの話になるが、昨年、深刻な経営危機に陥ったFC岐阜は全県の支援を取り付けていたクラブだ。
その時の社長は丹羽とともに早稲田卒業後、東洋工業に進んだ今西和男氏だった。
その今西氏は経営危機の責任を取らされる形で無念の思いを抱いたままクラブを去っているのだ。
丹羽はおそらく同じ広島出身で旧知の今西氏に話を聞いているだろう。
Jクラブになったからといって簡単にうまくコトが運ぶなどとは今西氏ならば言わないはずだ。

いったい長野・北信地域にどれだけのポテンシャルがあるのか。
現在のパルセイロのホームページを見る限り、大きなスポンサーは見当たらない。
おそらくそれでも地元としては精いっぱい支援していると思っているのではないか?
だがJでやっていくにはそれだけでは全然足りない。
今シーズンと来シーズン加入予定のJ3にいる間に準備をしなければならない。
チームが美濃部監督のいうようにJで戦えるチームを作ろうとするならば、クラブフロントもそれに耐えうる状況にならなければ必ずどこかで空中分解してしまう。
よく言われることだが「この20年で選手はプロになったが、フロントはまだアマチュアのまま」というのは、確かに当てはまるクラブがいくつも頭に浮かぶ。
それだけスポーツビジネス、プロサッカークラブの経営は難しい。

また、地方クラブに心配されることとして、地元財界人との付き合い方がある。
財界人は往々にしてタニマチ気質を持っているから、選手や監督を饗応したがる傾向がある。
地方になるとそれはさらに顕著で、夜な夜な選手や監督を呼び出しては焼肉やら寿司やら酒やらをごちそうしたがるものだ。
選手も金銭的に恵まれているわけではないからそれを受け入れてしまう。
するとどうなるか?
クラブとしての統制が取れなくなってしまう。
タニマチはクラブにスポンサーフィーを支払い、さらに選手やスタッフにまで金を遣っているのだから感謝されこそすれ、非難される筋合いはないと考えている。
ある意味それは当然だ。
そのタニマチにしてみればそのために金を遣っているのだろうから。
だが、そういう人物は傾向としてクラブのやり方や強化方針、補強、契約内容にまで口を出すようになる。
それは選手やスタッフなどの現場の人間の話しか聞いていないからだ。
現場の人間は多かれ少なかれフロントに不満を持っている。
それは町クラブだろうがJFLだろうがJクラブだろうが変わらない。
一般企業やどんな組織でも同じだろう。
選手や監督個人の愚痴を愚痴として聞いてやりながら、クラブの理念や活動方針に沿った支援を続けようとする財界人はそう多くはいない。
ましてやクラブ社長に実業者としてのキャリアがなければ、財界人は内心でハナから馬鹿にしてかかることもないわけではない。
そうやって支援者との関係が悪くなり、結果として財政的に苦しんでいるクラブを現在進行形で私はいくつか知っている。
監督がスポンサー社長のお供で呑みすぎて、翌日の練習ぎりぎり間に合ったなんてことも過去にはあった。

個人ではなく、クラブの理念に金を払ってもらう。

こう書くと美しいが現実はそう甘くはない。
理念だけでは食っていけないのもまた現実だ。
それでもそういう方向性をクラブにかかわる者全員が共有しなければいずれ自分たちの首を絞めることになってしまう。
個人はいつか去ってしまうが、クラブをそこでなくしてしまうわけにはいかない。

また、Jに加盟直前のクラブにはエージェントが入り込もうとする。
選手や監督のエージェント。
それは悪いことではなく、むしろ当然のことだ。
だが、エージェントすべてがいい人間とは限らない。
結果的にクラブを食い物にしてしまう(ように映る)ことは珍しいことではない。
その辺はプロクラブの経験がある足達勇輔がスポーツディレクターとしているから心配は不要であろうか。

他にも、これまでほとんどボランティアのように支えてきた地元メディアとの関係がある。
Jに加盟するとメディアとの関係も大きく変わらざるをえないし、マーチャンダイジングやライツの関係もきっちりとしたルールで縛られてしまう。
これまでを基準にするならばそれは縛りと映るが、Jはそういうルールで動いている場所なのだ。
そこに自ら足を踏み入れようとしているのはほかならぬクラブ自身だ。
だからといってこれまでの地元メディアの尽力をクラブが無碍にしては今後の露出にも影響するし、折り合うべきところはうまく折り合いをつけて、さらなる露出を図らなければ地元の市民にとっても浸透はしない。
Jのルールを高圧的に地元メディアに押し付けるのではなく、何かうまい方法を考えて、ともに存在価値を高めていくべきだ。
なんせ地方の強みはその集中的な露出度なのだから。

私はパルセイロのフロントの誰かやスポンサーを取材したわけではないからパルセイロについてはわからない。
ただ、いくつかのJクラブの過去と現在に実際に起こった(起こっている)ことなのだ。
パルセイロには絶対にそんなことは起こらないと誰が言い切れるだろうか?
現在も外からは見えないところできっといろいろなことが起こっているはずなのだ。
取り越し苦労というか、余計な心配であるならそれが一番いい。

希望と絶望は同じ器に入っている。
悩みは尽きない。
他人同士が勝負事を巡る商売を一緒にしようとしているのだ。
だからといって博打のように考えてはいけない。
見るだけなら博打だろうがエンタメだろうが、好きに考えていいが、プロサッカークラブの経営がそれと同じなら早晩立ちいかなくなるのはすでに見えている。

はじめて私が目にした南長野には希望があった。
雪や風雨の中で骨まで冷え切ってしまったが、私にはそれしか見えなかった。
だが同じ器の中でひっそりと出番を狙っている絶望の鋭い牙は、それでもどこかに潜んでいたはずなのだ。
ただの寒々しい球技場をサポーターがスタジアムに変えたように、絶望の牙を無力化するのはサポーターだ。

どうか、十分な準備をして欲しい。
一年早くJに入るのと、十分な準備をして入るのと、どっちがいいのか。
私は再び美濃部監督が会見で言った言葉をここで噛みしめる。
「クラブの未来」を作っていくために重要なこと。
モデルはすぐそこにある。


※ 文中、一部敬称を略させていただきました。ご了承願います。


( 完 )

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